distAnce外話_反射率0.72②
作者:みこう悠長
投稿日時:2021 0228 2100




# □始源概念

 自我なんてなく、ただ寒い、寒いだけの雪の空気を、漂い浮かんで流れるだけの時間だった。あるときは西にあり、あるときは北にいて、またあるときは高く、そして今は低い;非常に冷たく、少しだけ冷たく、だが冷たくないことは決してない。広く:薄く:留まることなく:散在し:滞留し:ある;いや、ない。そのどこに手足があり、そのどこに脳があり、そのどこに血が流れ、このどこに自分はあるのか。――自分? 湖に徒に湧出し、その上を漂い舐めるように広がり、熱を奪われ消えるだけの〝現象〟。名はない、体はない、存在ではない、自他の区別はなく故に、自己はない。はずだった。ただ、ただ寒い、寒いだけの雪の空気を、漂い浮かんで流れるだけの、何かだった。
 虫は、暗い土から這いいでて、打ち捨てた古い体の背中を割り、新たな体に澄んだ羽で舞い踊る。その姿ばかりが強調されて、土中の頃は下積み:備え:待機:雌伏と目される。でも、そっちの時間のほうが圧倒的に長いのだ;もし虫に自我が生まれるのだとしたらそっちの間だろう。つがいを探し交尾して、卵を生んで後は死ぬだけ;そんな一瞬煌めき散るだけの命一時的な機能をして命や意思や存在を担わせるのは、残酷であるしそれ以上に、カンジョウが合わない。幼虫こそが成虫で、成虫とは死出なのだ;ただ交尾するための姿なんてそんなものに意思が宿るわけがない;宿ったとしたらそれは、とてつもない不幸だ。そう、思う。
思う。自我なんてなく、ただ寒い、ただ寒いだけの雪の空気を、漂い浮かんで流れるだけのはずなのに。魔名マナに富んだ豊かな湖から湧き上がり漂う水蒸気が、私なのだった。何も見ない。何も聞かない。何も感じない。何も知らない。何も考えない。何も作らない。何も壊さない。何者でもない。私ではあるが、私は自己ではない。こうして内省することだって、このときは、出来なかった。
 もし、虫なら。もしエネルギーを蓄え留める安定的な存在であることを捨て、背を割り無防備な姿で羽を伸ばして余命幾許もない高エネルギー発散体になることでしか、次の準備が出来ないのなら。今は、どうなのだろう。自分もそうした、地中にあるエントロピー抵抗体と等しいものであるとするのなら。今は、どうなのだろう。

「君はいつもここにいるね」

 きみ?

 きみ、という言葉が自分に投げかけられたとき、隣接するあらゆるものとの境界を感じた;切り取られた、と言っていいかも知れない。自我なんてなかった、という認識は、こうして自己が切り取られた瞬間に瞬時に後方に向けて延長されるように新たに構築されたみたいに思える。自我がなかったという自覚は自我が無いならば出来ない筈だ、それが出来るようになったのは、自我が生まれたからかもしれない;それを差し置いても、遡って自我がなかったことを認識できるのは、理性による直観への、それは越権行為だ。

 きみ?

 光沢を持った青い丸に光が動いている。それはこちらを追ってきていた、より遠くにある何らかの点ではなく、こちらを。こっち? こっち、とは、どこだ。あっちではなく……あっち? あっちとは、こっちを起点にして、遠いところ、こっち? こっちとは、自分に近い点で、自分? 自分を追ってきている、のか、あの点は。自分は、より遠くにある何かではなく、この点が追いかけてくる先に、あるのか。自我、は、自分は、ここにいて、あっちにはいない。大きさを持っていて、それは、あたい、だ。
 煌めく光沢球は、よく見れば、細かく面を刻まれていた。一つだと思っていた、あたいを追う光の点は、細かく刻まれたその点一つ一つに光っていて、それぞれが別にあたいを追い、その結果一つに見えているらしい。
 手がある。体がある。足がある。手を動かそうと思うと、手が動いた。手とは何なのか、体は知っていたが、頭はまだ知らないままだった。動かしてみて動いた部分が、手だとやっとわかった。足にしろ、体にしろ、口にしろ、耳にしろ、おしりにしろ、すべての部位が、そうだった。あたいの体が、出来上がった。いや、元々こうしてここにあったものを、彼が認識させた。
 あたいはに絡みついた、絡みついていた。〝自〟と〝他〟に境界が生まれる前、あたいは彼と同一だったように思っている。こうなるまで、あたいはずっとこうだったに違いない。絡み付くと言うか、区別がない、なにかだった。あたいは〝きみ〟と呼ばれてあたいでないものと区別されるまで、あたいでないものと境界なんて感じていなかった。自我がないということは、全てだということだ。は、あたいから、あたい以外の全てを奪い去った。その代わりあたいを〝きみ〟と呼ぶことでは――

あたいを、〝存在〟にした。

「ボクがこの幻想郷世界に来てから、君がその湖の傍で発生と消滅を繰り返した回数は111回。年数にして大凡6770年。それと、ボクが最後にここで君が消えるのを見てから今日で丁度1年、それを含めて平均すると君の〝1回〟は約60年;妖精としては、すごく、長いね。なんて思いながら、実は、1回君に話しかけるのを躊躇してしまったんだ。だからこれで112回目、年数にして6832年2ヶ月と1週間と3日、それと15時間23分49秒……って言っている間に23秒が過ぎちゃった。」

これは元はあたいと境界を持っていなかった。そのつもりで絡みついたのに、自我を与えられたあたいと隔たれている。触れる、ということを知り、そこに差があることを知り、その差を温度の違いだと感じた。存在の違いが、自我と認識なのだと知った。体ではないものとの境界によってのみ、体は、体である。あたいではないものとの境界によってのみ、あたいは、あたいである。

 その隔絶が、ひどく、寒かった。寂しかった。そんな風に感じたことなんて、一度もなかったのに。自我がなかったのだから、あたりまえか。あたりまえでも、そう思えなくなっていた。

 自我とともにあたいあたいでないものあたいの間に境目が生まれた。つまりその境目自体、違い自体が、あたいあたいにしている。

の〝きみ〟という言葉が、あたいを、そうしたのらしかった。
 自我とは、その境目そのもの、なのらしかった。
あたいとは、その境界線そのもの、なのらしかった。
 〝存在〟とは、ちがうということ、なのらしかった。
 自我とは、さみしさ、なのらしかった。

「そうか君は、まだ記号と認識が紐付いていないんだね。」
「おまえ。は。あたい。から。あたいいがい。の。ものを。うばった」
「そっか。ごめんね」

 そう言って、は、あたいではない腕で、あたいの頭に触れた。触れられた。そこに、あたいがいた。冷たくて、温かくて、さみしくて、うれしい。細かくとんがったちくちくが、髪の毛をするすると梳く。

「でも、60年ごとに新しく生まれて、何も言わず、何も知らず、どこかを眺め続けながら、60年で消えていってしまう君は、なんだかとても、さみしそうに見えたから」
「さみしく。なかった。あたい。じゃ。なかった。から。でも。たぶん。さみしかった。あたい。には。わかる。」

あたいの頭に触れるには腕が6本あって、細かい光の玉をたくさん宿した大きな塊が、きらきらとあたいの方を追ってくる。体にも節がいっぱいあって、羽があった。その下にあるのが口だとしたら、固くて強そう。あたいの形とは、の形は、全然違うらしい。違うから、あたいと、なんだ。ちがうということ。さみしくてつめたくて、でも、べつべつだから、あったかい。

「うで。いっぱい。ある。つよそう。あたいも。ほしい。」
「君にはもう綺麗な手が、ふたつ、あるじゃないか」
「おんなじが。いい。おまえが。あたいを。よぶまでは。おんなじ。だったのに。」

 だから、願った。いや、想った。そうしたらあたいの背中辺りに、の6本の腕を真似た氷の像が出来上がった。へたっぴで、ぜんぜん違う形になっちゃったけど、それはもうあたいの体の一部だ;だって、自我がそうだと認識したから。それを見たは、少し大きな声を上げた。驚いて、いるらしかった。

「ボクを真似してくれているの? うれしいな。それに、君はすごいね、もうこんなに力を使えちゃうんだ。」
「おまえの。うでと。おんなじに。したかった。ならなかった。」

 ちがうことがそんざいだった。
 おんなじにしたかった。
 彼が話し相手になってくれたこと、あたいがあたいになって、あたいがあたい以外から切り離された。あたいは妖精;自然の表象なのにあたいの自我の本質は、氷晶から切り離された〝ちがうということ〟。それが、あたいの氷晶核対自核になったのかも知れなかった。




# □れい子

きずくさん。おゆはん、出来ましたよ。冷めないうちに召し上がって下さいな」
「ああ」

 れい子が下の階から僕を呼んでいた。あれは実によくできた妻だ、よく出来すぎている。平日は仕事:仕事と言っても好きなことをぐうたらと続けているだけのこれをそう呼んでよいのか甚だ疑問なのだが、ともかく:仕事一辺倒で帰宅するのは深夜、それでもれい子は毎日晩御飯に箸をつけずに僕を待っている。先に食べて寝ていて構わないと言いはしたのだが、聞く耳を持たず必ず僕を待ち、僕と一緒に食卓を囲まなければ気がすまないというのだ。平日がその調子なのは仕方ないにせよ、休日にも僕は妻に対して良い夫であるとは言い難い。昼過ぎまで寝ている、起きてはしばし喪神紛いの有様で過ごし出された食事を口にして夜にはまた寝てしまう。夫として妻にしてやれていることは何事もない、するつもりがない、と言われて弁解出来るものじゃないこの体たらくにあって、それでも彼女は何も文句を言わずに僕の生活を支えている。男は外で狩りをし獲物をとって持ってくるのが仕事、とはよく言ったものだが、そういう観点でも僕は〝狩り〟という言葉からは程遠い仕事をしている;ただ、机に向かい電卓を叩いて現実でもない数をこねくり回しているのだ。得られる賃金は〝狩り〟などではなく国が用意してくれているもので、成果に対する報酬ではなく期待に対して涌いて来る投資だ。僕が家に持って帰るのは獲物ではなくまるで魔法の様に出現する貨幣であって、そうであることを鑑みれば僕は男としても家庭の役に立っているのかわからない。僕の仕事のことを、妻れい子もよく知っており、つまりは僕が家長として夫として不具と相違ない男であることも承知しているのだ。茅野ちののことについても反対もせず、娘のように接している。僕とれい子の間にはまだ、子がない。だのに、何も言わない。いつも穏やかな表情で〝きずくさん/\〟と、甲斐甲斐しく僕を支えてくれる。茅野ちのの世話も良くしてくれているようだ。よく出来た、本当によく出来た、僕には余るほどの良妻だった。
 下の階に降り食卓の前に腰を下ろし端末にニュース番組を表示すると、いつものように気の滅入る報道が繰り返されていた。

「昨年スルト島で発生した噴火によって発掘された古細菌にとって、現代の気候と生態系が好適だったのだと思われます。」
「また〝古代の細菌〟ですか。」
「アイスランドは多くが氷河で覆われています。氷河の奥底には人間の文明が現れるよりも遥か昔の菌やウィルスが冷凍保存されているケースも多い。昨今の温暖化により氷河が溶け出していたこと、それに加えて昨年の噴火によって急激にその可能性をました、というところでしょう。」
「スルト島での噴火イベントは古くは1963年、以降度々に噴火を繰り返していますが何もない新しい島がどの様に自然を帯びていくのかの研究のためにこの島は徹底的に保存されていると聞きます。この島には既に多くの維管束植物、地衣類が繁茂し、海豹や渉禽の繁殖地として定着しています。同時に、菌類もその当初から確認されているとか。人間の手によるあらゆる〝移動〟は制限されていますが、自然活動によるそれは制限を受けていません。〝自然の運び屋〟によって運ばれたものの中に今回感染拡大している菌が含まれていたのだとして、何故、今なのでしょう?」
「可能性の問題でしかありません。これは100年前に発生していたかも知れないし、もしかしたら100年後だったかも知れない。それだけの話です。その可能性を大きくしている要素として、地球の温暖化は間違いないでしょう。」
「これはウィルスではありませんから、破局的大流行カタスデミックの危険性は低いと思われますが――」

 地球の温室化によって気温が上昇し、嘗て氷に覆われ封じられていた土壌から、人間文明にとって未知の細菌やウィルスが矢継ぎ早に放出され、世界での疫病流行はスパンを縮めていた。100年に一度と言われたパンデミックは、2、30年に一度発生する有様で、長距離を伴う物理的な人的流動は商業流通・往来に偏っており、国境を超える観光業は衰退していた。国内でも、通信技術の進歩と相まって長距離移動の頻度は低下している。地方自治が進み、一部の国家においては分裂も発生した。独立紛争に民族主義だけではなく疫病までもが絡むことも珍しくなく、そうした場所での泥沼の様相は亢進を極めている。僕は陰鬱な気分に滅入ってしまい、すぐに番組を消した。何より、もう知っている情報だ;既知の情報の入力を無駄に重ねても、自分の思考が偏るだけだ。だが、そうした既知の情報を重ねて得ることに安心を得る人も存在し、そこに向けて視聴数を得られればよいのだから、メディアは繰り返すのである。気が滅入っていたのは、ニュースの内容に対してか、メディアのやり方に対してか、両方か。それとも別の何かに対してか。別の、何か。そう、それは一番の問題かも知れなかった。

「どうなってしまうんだ、この先」
「私には想像もつかないことです。私はただ、今の生活が続けばそれでいいですわ。正常ばいあす、っていうんでしたっけ? 悪い人間でしょうか」
「でも、それを持たない生き物もまた死んでしまうだろう。異常系にエネルギーを割き続けても永らえられるほど、生命というのも甘くないものだ。備えろ対策しろ注意しろとは言うが、それもまた宗教のようなものだろう。れい子を悪く言える人間なんていないさ」
「難しいのですね。今日のお食事は、お口にあいますか?」
「美味しいよ、すごく」
「ありがとうございます」

 それから、ようやく彼女は箸をつける。ただ晩飯を褒めただけで、彼女の笑顔は本当に嬉しそうだ。彼女の料理を、僕は好きだ。まずいと思ったことなどただの一度もないし、今こうして食べている料理も嘘ではなく本当に美味しいと思っている。ただそのことを正直に言っただけだ。彼女の言う通り、地球の裏側の出来事になんて気を使っている余裕は、本当に正しいのかどうかわからない。目の前にあることだけが本当なのだから。目の前にある、今ここにある、家庭。ただそれだけのことで、彼女は本当に幸せそうに笑う。なぜだろう。この世界にはもっと大きな幸せがあるし、僕なんかが飯を褒めたところで、一体何だというのだ。彼女の金で飯を食う代わりにジュースを買ってあげても、荷物を膝の上に置く代わりに先に椅子に座っても、彼女はにこ/\としているに違いない。流石にそんなことはしないが。

「明日は、政府のお偉い方がくるそうだ。前の責任者が亡くなって、事業内容が急に変更になったからね。説明が必要だろうとは思っていたが、動きが早い。ちょっと妙だ」
きずくさんが社長さんだなんて」
「社長じゃないよ、技術部門の代表取締まられ役というだけ。失敗すれば、ぱあだ」
「男の人の社会ってなんだかよくわかりませんけど、とにかく、偉い方がいらっしゃるならそれなりの格好が必要ですね。」
「呼朝陽のがあったろう」
「あれは冬用ですよ。」
「そうだったか」
「結婚前に着てらした、イージーオーダしたものがありましたでしょう。」
「安物だし、型が古いだろう。」
「高くはないですけど、作りはしっかりしていましたよ。生地も本場物ですし。古いと言ってもフォーマルならまだ通用するタイプでしたから、失礼はない背広です。」
「そうか、じゃあそれにしよう。」
「はい。出しておきますね。」

 れい子はよく出来た妻。だがそれ故に息が詰まり、僕はれい子をどこかで、持て余すように感じるようになっていた。彼女が僕の我儘を呑み込み何事もなかったかのようにいるのを見るにつけ、そうした平素の振る舞いのすべてが、僕を詰問して来ている様に思えて、ならないのだ。重い、れい子の無私な甲斐性が、僕には。なんて傲った、なんて我儘な、独善で身勝手な思い上がりだろう。わかっている。でも、夫婦とはそういうものだろう。ここにあるたった二人だけの社会は、玄関を出たところに存在する社会と、全く別のものだ。この家の外にいる誰もが、僕のことを妻を不自由なく養うまともでよい夫だと思っている;この家の外にいる誰もが、れい子のことをまともな男に嫁いで何一つ不自由のない生活を送る女だと思っている。だがその実態は、こうだ。彼女は本当に幸せだろうか、僕なんかと一緒になって。いや〝彼女の立場になってみれば〟なんて言い訳じみた物言いそのものが卑怯だろう;僕が彼女を重荷に感じている




# □おてんば仮恋娘

「り〜っくぅ〜ん?」
「ぁ、ローリー、おはよ……随分はやくない?」

 ローリーが腰に手を当ててボクを見下ろしている。月影のない真闇の夜空に歌えば、忽ちに魔性を帯び人だけでなく上位の妖怪でさえ惑わせる歌声が、完全に無駄遣いされていた;ボクの名前を荒々しく吐き捨てるのにそれを使うなんて。頭の上に転がっている目覚まし時計を掴んで目の前に持ってくる、まだ朝の4時だ;別に寝坊というわけではない;だのにローリーの声は、人間の心臓なら一声で締め上げて潰せてしまいそうな呪詛に満ちている。布団の中のボクを呼ぶ声が甘ったるくないのもまた新鮮だった、まだ寝ぼけ眼で事態を理解していないボクは、にへら、とのんきに笑ってローリーの方へ手を伸ばそうとする。だが、布団よりも重たい何かが乗っかっていて動かない。なんだよう、ローリーに触れたいのに。力を入れて腕を引き抜こうすると、なんだか知らない感触が伝わってきた。

 むにゅっ

「むにゅ?」
「やん♥」

 えっ、なに……?
 柔らかい感触、これ、えっと、記憶にないわけじゃないんだけど、それがここにあるわけがなくって、でも今まさに手の中にあって。柔らかさを感じた手の方を見ると、横に並んで寝ているルーミアがボクの手首を掴んで、ボクの手をぐに/\と自分の胸に押し付けていた。相手を煽るような意地の悪い笑み。手のひらにある感覚の正体は、ルーミアのおっぱい。すごく大きい、というわけじゃあないけど、こうして押し付けられれば流石に……。

「りっくん、その手、何?」
「あわわわわわ」

 慌てて引っ込める、ボクの手首を掴むルーミアの手に抵抗感はなくて、ただ徒にボクを煽っているだけのよう。

「な・ん・で、ルーミアとりっくんが一緒の布団で寝てるのかなぁあ〜^v^」
「な、なんでだろー? ルーミィ、いつの間に入り込んで……」
「えーっ、昨日あんなにいっぱいシたじゃぁん♥」
「はぁ!?」
「ふーん、そーなんだー?」
「ま、まって、なにいってんのルーミィ!?」
「だってリグル最近してくれないじゃん?」
「『最近』『して』?」
「あっ、まって、もしかして二人ババ抜きのこと!? そりゃ昨日したけどさ、二人ババ抜きとかしないでしょ普通!? つまんないでしょ!?」
「見苦しいなあ」
「見苦しいねえ、りっくん?」
「むちゃくちゃだあ!!」

 女所帯の一人男というのはこういうものなのだろう、いつでもボクは最下層民だ。ある意味で諦めているが、諦めたからと言って事態が丸く収まるわけでもないし、痛みが和らぐわけでもない。ローリーにえっちじゃない方のプロレス技をかけられて腕がもげそうになっているのを、ルーミアはゲラ/\笑って見ている。そんなふうに騒いでるところに、チルノが起きてきた;ボクとローリーと、それにルーミアの有様を見て、察したようにため息を吐く。

「あんだようっせーなー、まだ早いだろー。ていうかあたいいっつもこんな風に叩き起こされるんだけど、なんか恨みでもあんの?」
「リグルが悪い♪」
「……いーじゃんかよ。どうせリグルなんてあたいらの共有♂なんだし」
「まって!? 〝共有♂〟って何!? っていうかチー随分聡いね?!」
「共有ちんぽの前に、わたしの旦那様なのー!」
「そりゃわかってるけどよ」
「わかってるならさっさとルーミアから離れて、このペド蟲!」
「誰と会話してるのかめちゃくちゃだよお! ルーミィもなんか言ってよお!」
「またしよーね♥」
「ギュエエエエエエエ💀」

 ローリーの投げコンボも板についたものだ、ボクが幾らマットを叩いてもレフェリーはいないので終わることはない……痛みで泡を吹くまで続くだろう。うう。

「しかし、お前らホント仲いーよな」
「よくないわよ、こんなサイテー男!」
「あんまそんなことばっかやってたら、風見ネェに取られるぞ。どう考えても風見ネェ、リグルのこと好きだし」
「……しってる」
「じゃあ程々にしとけよ、でないと」
「それとこれとは別!!」

 そろそろ関節が増えそうだなというところで、ボクとローリーとそれにルーミアの茶番をどこか冷ややかに見ているチルノが、誰にも聞こえなさそうな小さな声で呟く;その口の動きが、技をかけられっぱなしのボクの角度からだけ、見えてしまった。

(でないと、あたいが、取るぞ)




# ♥行き過ぎた恋模様

 先日ルーミアに酷い目に遭わされたので、流石にしばらくはよる警戒しておこうと思っていたわけだけど、全員が消灯した後で性懲りもなくボクの部屋に忍び込んできた。またルーミアだろうか、と思っていたら、それは違うとすぐに分かった;体温が、違いすぎる。でもいつものチルノの体温ともまた違うように感じた。温い……いや、チルノにとっては、熱すぎる。
 それはともかくとして、布団の中をもぞもぞと動き回ってボクの上に乗っかる形で、彼女は布団の中から顔を出す。いつもの寝間着姿、透け感も飾り気もないシフォンのベビードール姿……と思ったら、同じベビードールでも前開きでふわふわにレース装飾されたコケティッシュでちょっと(いやかなり)エッチな姿。目のやり場に、困る。

「え、えっと、チー、何してんの?」
「夜這い。」
「……真顔でそういうこと言わないで。こないだの見てたでしょ、またそういう――」
「声なんか出していいのか? こんなとこ、またミスティアに見つかったら大目玉だぜ?」
「まだ何もされてないからセーフだよ、ちー……んっ!」

 出てってよ、と声を出そうとしたら、口を塞がれた:唇で。そのまま舌が入ってくる、冷たい、彼女の。冷水みたいな唾液が入り込んできて、温度の違う肉と液は、口の中を満たす感覚がすごく強かった。冷たい唾液は口に溜まると嚥下を強いられて、それに引きずられて声が出せない。そして、今のチルノには唇を強く強くとくっつけるだけでなく、ボクの口を開き続けようとする乱暴さがあった。唇をレイプされている:そんな感覚に襲われる。流し込まれ続ける唾液、飲み込む程にチルノを受け入れているような感じにさせられて、温度は低いのにクラ/\してくる;喉を通った後に焼けないアルコールみたい。ようやく唇が離れたとき、ボクの呼吸はあっという間にチルノに支配されていたことに気付かされる。チルノの手はボクの手を捕まえていて、いつの間にかベビードール越しに胸のあたりに押し付けられている。膨らみは……殆ど無いけれど。

「ぷ、ぁ」
「アウトだな」
「っ」

 アウトだなんて、そんなわけがない;だってチルノが勝手にやってきたことだ。これでボクがアウトになるわけがない。でもそれ以上に、唇を離した後ボクを見るのチルノの視線が、静かなのに激しくて、それに、淫らなほど熱い。それにボクが幾ら拒否しようとも、チルノは強硬にボクの傍を離れようとしない;引き剥がそうとすると、〝夜這い〟だなんて言葉が霞んでしまうような、悲痛に泣きそうな表情を見せるものだから、加減をしてしまう。

「チー、だめだって」
「だって」
「だってって、なに。またボクを困らせたいの? みんなして――」
「だって、しょうがないだろ、生まれてはじめて目にした男がお前で、それからずっと一緒にいるんだぞ。お前は、他にもオンナがいっぱいいるつもりかもしれないけど、あたいにとっては、お前が、いちばんおっきい、男なんだよ。」
「え……」
「好きなんだよ、多分」
「多分って」
「よく、わかんないから。でも、こういうことは、したい」

 チルノはベビードールの肩紐をずらす、するりと通り抜けるように剥けて裸の上半身が現れる。慎ましやかな膨らみ、先端のピンク色も小さくぷちんと張っている。痩せぎす過ぎるほどのあばら、でも腰回りはすとんと落ちていて、チルノがいくら妖精としては特異な程の長命個体であったとしても、やはり妖精らしい幼気な体型をしている。でも、それが余計にえっちにみえる。何より、オンナの貌がボクを見つめていた。

「……お前が、初めてあたいのことを呼んだんだ。あれから、あたいはずっと、お前のものなんだぞ」
「妖精は、誰だってそうじゃないか。誰かに認識されれば人称を得て、そうでなければ無為の自然概念のまま離散と凝集を繰り返す。ボクじゃなくったって、いつか誰かはチーを〝呼んで〟いた。チー以外の妖精も、誰かに認識されたから妖精になっている。ボクにばっかりそんなこと」
「それでも、あたいにとってはリグルは……絶対認識なんだ。今のあたいを、支配しているのは、リグルだ」
「そんなこと、ないじゃないか」
「ある」

 そう言って、チルノは背中に背負った六つの氷塊を揺らす。それは氷と言うには流動的で、丸みを帯びた塊になったり細長くなったり、腕のような形になったり、あるいは規則正しい立方体になったりもする。

「これ、ずっと、お前を追いかけてる。まだあたいが柔らかかった頃、リグルと同じになりたいと思ったときにこうなって、それからずっと固定化されたまま」

 六つの氷塊は、彼女の変幻自在のインタフェース;それは、昆虫の姿をしていたボクの六本足の姿を真似をしたものだという。チルノの生の手足は四本あるので合計十本になるのだけど、彼女にとっては、そういうことではないらしい。

「あたいはまだ、リグルと、ひとつになりたいって、思ってる」
「そんなの、今まで一言も」
「言ってないもん、当たり前だろ。でも、察してくれたって、いいじゃんか……」

 もう一回、押し売りするみたいな、でも切なそうな唇。チルノがボクの唇を、唇で食べようとしてくる;ボクも食み返して、今度はお互いに舌。

「ん……ぁむ」
「ちゅっ、ん、ふぅっ……でも、なんか、全部ぶちまけたらどうでも良くなっちゃった、今更。ただ、さ」
「ただ?」
「言ったろ、〝共有♂チン〟♪」
「ひぇ……」
「安心しろって、挿入れないからさ。そしたら、浮気じゃないだろ?」
「そういう問題じゃ……ぅあっ!?」

 チルノはお布団ダルマになりながらボクの股に間に引っ込んでいく、獲物を捕まえた地蜘蛛みたい。いつもはひんやりとしているはずのチルノの肌が、熱かった。こんな体温になって大丈夫なのか;なんて心配をする余裕もボクにはなかった。まるで捕食したみたいにボクの股間に顔をうずめて、パジャマの上からそれに頬ずりしている。唇をとんがらせてむく/\大きくなるそれの輪郭をなぞられると、充血が増々加速してすっかりテントを張ってしまう。チルノはといえば、高くなった体温のせいなのか、まるでのぼせたみたいにふわ/\した表情に、欲情のピンク色オーバーレイ。住んだ青色の瞳の底にも桃色の炎が揺らめいていた。チルノ、興奮してる:それも、すごく。

「ミスティアに、ルーミアに、風見ネェ、なんだあ最近は土蜘蛛まで、ハメにハメてるオンナ泣かせのは、こいつかぁ? うわあ、オスって感じ……」

 すーっ、はーっ、はーっ♥
 ボクの股間に顔をうずめて、鼻を鳴らしている。そんなものの匂いをかぎながらチルノはとろんとトロけた目、興奮、してる。
 布越しのチルノの唇が、ねっとりと熱い。少し温かい程度のスープでさえ、熱くて溶ける、なんて言っているのに、今ボクの股の間で蠢いている赤い粘膜は二枚も布を隔てているのにを体温を感じるくらい。唇でなぞったり、先で挟んだり、頬でこすったりしているが、その間中じっ、と発情上目遣いの視線がボクを見ている。ぱんつの下で完全に張り詰めた肉棒に、荒々しく猛るチルノの息遣いが伝わってくる。こんなにも〝熱〟を持ったチルノは、初めて見たかもしれない。唇でなぞり挟んで、唾液が漏れて濡れた場所を、チルノは重ねてなぞり立てる。やがてボクのおちんちんを、布の上から舐め回し始めた。わざと舌が見えるように口を大きく開けてわざと唾液を溢れさせ、張り詰めたテントの形を唇で食み、舌筆でなぞり濡らして舐め回す。パジャマとぱんつの布を隔てている分与えられる刺激が緩慢で、もどかしくて堪らない。

「だ、だめだって、チー」
「何がダメなんだよ、こんなに膨らませて?」

 こりっ、こりっ♥

 チルノは立てて布越しに前歯を立ててペニスを刺激してくる、布を隔てているせいで丸く鈍った感触、中途半端に気持ちよくて、余計にもどかしくて腰が逃げる。でもチーは逃してくれなくて、左腕でボクの太腿を抱え込むみたいに捕まえた。右腕はボクのパジャマの内側に入り込み胸元を探る。少し冷たい体温が、ボクの乳輪に触れる。

「まっ、ち、ちー……っ、ふぁ、あっ!」

 かりっ♥ くりくりっ♥

 チルノの細い指が、ボクの乳首を撫でて、擦って、摘んで、弾く。同時に、布越しおちんちんに爪を立てて先端を引っ掻いてくる。生ぬるくなった刺激が勃起しきった亀頭に甘く突き刺さる。欲しく、なる。

「へへ、あっちこっちの女に抱かれてるだけあって、相当開発されてんなー♥」
「な、何その言い方……うくっ、やめっ」
「ほーらー、声出したら、ばれちゃうぞ♪」

 チルノに好きなようにされて、ぱんつのなかでおちんちんが、びくっ、/\、て跳ねてしまう。その度に肉欲の象徴の膨らみがチルノの柔らかいほっぺたを押す。艶然な目線でその膨らみを見ながら、チルノは敢えてそれに顔を押し付け、唇で食み、舌を当てて歯を立てる。布の下でもどかしく、とろり、と先端が滲んでしまう。チルノの歯先は、膨らみの先端を刺してくる。鈴口の先端に溢れ出す先走りが、ぷちゅ、と押しやられて布に染み込み脇に漏れる。

「ふふん、あたいにかかればリグルのちんぽなんて、めろめろだな♪ ……あたいで、エロい気分に、なってくれてんだなあ」
「そ、りゃ、こんなこと、されたら ふあぁっ、乳首やめっ♥」
「敏感ショタ、スケベやろう。女のあたいより乳首感度いいんじゃね?」
「そんなことな、うきゅっっ♥ や、チー、乳首、そんなつまん……ふぅっっっッ♥」
「ちんぽは布越しなのに、乳首直虐めでそんなエロい顔すんの? 男なのに? リグルって、やっぱメス♪」
「や、やだよ、チー、やめてっ」

 チルノはボクの太腿を抱え込んだ腕を器用にずらして、そのままパジャマをズリ下ろしていく。巻き込まれてぱんつも一緒に少しずれた;勃起したままの棒に引っかかって、パンツは降りない。でもチルノは容赦なくそれを剥ぎ取ってしまった。ぽろん、と外気に触れて勃起した剥き出しのおちんちんに、チルノは満面の笑みを浮かべる;顔面目の前に立ち上がったそれを見ようとしたチルノは寄り目、その表情がエッチで、とろっ、と先走りが溢れてしまった。

「もう、さみしそーに泣いてんじゃん♪ ふふ、いただきまーす♥」

 チルノは剥き出しになったボクのおちんちんに、躊躇なくキスをする。っちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、啄むように、根本から先端に向けて、無作為の場所へ。ただ口をつけるだけじゃない、唇が触れる瞬間に、唇をキュってして、おちんちんの粘膜を小さく食んでくる。チルノの柔らかい唇がペニスの表面を擦り、何よりチルノの可愛い顔がボクの汚い棒にべったり寄り添っている図が、あんまりにもエッチで興奮する。ほっぺたをペニスに押し付けて、柔らかい頬肉が形を変えているのは、なんていうか、とんでもなく背徳的で淫靡だ。

「チー、そんなのどこで覚えてくるの」

 先端まで登ったキスの足跡は、てっぺんで開いて舌に化ける。普段は大口を開けて笑う彼女の口も、こうしているときはほんのりと色が薄くて可愛らしい。でもその中から出てくる舌は、男の肉棒を躊躇なく舐め回し始めた。キスの雨がそうだったみたいに、チルノの形の良い舌が、玉袋の2つの間からずるずるずるっっと這い上がって裏筋を通り、亀頭を雁首を踏み越えて先端に。一番上までイッたらまた根本からやり直し、根本の出発地点をわずかに左右にずらして何度もボクのおちんちんをみだらに舐り上げる。チルノの可愛らしい顔がボクのペニスを舐め回している映像は、それだけでも興奮する、しかも彼女の口愛撫は先端に拘泥せず、すぐに根本に戻っていく。一番敏感で一番刺激を欲する先端が、もどかしくて堪らない。先端で口先を止めて、そのまま舌を出して亀頭をくるくると舐めてくる。ちゅっ、ちゅっ、って敏感な先っちょに口づけて、ぺろって舐めて。

「あっ……ふ、ぁっ」
「……反応、かわい」

 チルノはうっとり目を細めて艶然と笑み、首を傾げ、舌先を細らせて雁首の裏をなぞる。唇で広くなでたり、舌先でピンポイントで攻めたり、どんどん煽り上げられて快感が膨らむ。ぱんつまで降ろされてボクが脱出を諦めたのを察した手は、ボクの玉袋をふわふわと触り回している。でも、手でおちんちんを触ろうとはしない、あくまでも、そっちは口で、愛撫するつもりらしかった。

「ここに、いぃっぱい、つまってるんらろぉ?」
「ふぁ、あ、や、チー、じょう、ずっ……」

 女の子に好きなように責め立てられて舐め回され、だらだらと唾液のファンデーション。鈴口からぷくっと先走りの雫が膨らむと、チルノはすぐにそれを舌で舐め取って幹全体に唾液と一緒に塗り拡げる。もう、おちんちん全体に感度倍増の媚薬を振りかけられたみたい。ふっ、てチルノに息を吹きかけられるだけでも期待に期待度が乗算されて、快感電流になって腰の奥に伝熱する。その熱は根本と金玉に凝集して、精液をせり出そうと暴れまわっている。もっと、もっと強く、シテ欲しい……ボクはいよいよ我慢できずに、口にしてしまう。

「チー、くわ、え……」

 て、の一文字に対して食い気味に、チルノはボクのペニスを一気に口の中に咥え込んだ。いつもは体温が低くてひんやりしているはずのチルノの口の中が、こんなに熱くなってる。ぬるぬるの唾液、顎の天井にコリコリ擦れて、その上、舌が縦横無尽におちんちんの表面を舐め回してくる。

「う、あああっ……すっ、ご……ぃ」

 唇には力がこもっている、自分の手でペニスを扱くときみたいに輪状の摩擦が上下に移動して雁首に引っかかって快感が爆ぜる、これが自分の意志と関係なくボクを責め立て同時に、口の中では舌が常に亀頭を舐め回している。強すぎる快感が熱感に変わっておちんちん全体を焼いている。尿道が開いて空虚感、射精する準備ができたって脳みそに訴えかけていた。

「んゴっ……♥ ふ、ぐヒっん、んっ♥ ぐぼっ♥ ふーっ♥ ふーっっ♥ ああいののろ、ひもひーあぁ?♥」
「きもち、い……っ♥」

 ボクの答えに満足したチルノは、今度は一気に口の中の気圧を下げてくる;吸い付いて、おちんちんを吸い上げるみたいに。でも、唇からは程よく力が抜けている、あえて空気を巻き込むようなゆるさで吸い付くと、空気の流れが仮首の裏に当たって刺激になるだけでなく……

 じゅっ、じゅぼぼぼぼっっ! ぶちゅっ、じゅるるるっっ♥ ぶぼっぶぼぼっっ!

 すごく下品なバキューム音が響いて、フェラチオされているいやさせているという感覚がすごく強くなって興奮する。力が抜けているからって愛撫が弱いわけじゃない、いちばん敏感な雁首の縁ではちゃんと、捲り取られるんじゃないかってくらい力が入っていて扱かれ感が強いし、唾液と空気が強く撹拌されながらその混合泡をまとった舌が亀頭に絡みつき続けるものだから、摩擦感の変化でより快感が強くなる。それ以上に、ちんちんに吸い付くチルノは一層激しく首を振って、上下に口扱きする速度を上げてきていて、オナニーしてるときのラストスパートにもっと強い気持ちよさが重なっているみたいで、くらくらする。おちんちん全体が溶けそうなくらい熱くて、ねとねとで、ジリジリ気持ちいい。
 肉棒を咥えて頭ピストンを繰り返すチルノの顔は、唇を前に伸ばしておちんちんに吸い付いてるせいでひょっとこみたいな間抜け顔。でも、その目はエッチな感情に潤んでいて、変顔ではなくてすっごいエロ顔に見える。この顔を見てるだけで、興奮してしまう♥

 じゅぼっ、ぶちゅ、ぐぼ、ぐぼぼっっっ! ちゅうううっっ、くぶっっ♥

「チー、それ、それやばっ……い、っ♥」

 ボクが快感に腰を引くのを、チルノは腕で捕まえ、体重で押さえつけてくる。逃さない、吸い尽くすまで;淫乱瞳の上目遣いでボクを見る彼女には、獲物を捕まえた肉食獣のような、性欲と食欲の区別がつかなくなってるような貪欲さが見えた。たべられ、ちゃってる……♥ 腰の奥がずんっと重くなって、快感と精液の混合物が金玉に渦巻いているのを実感する。
 快感に噎いで嬌声を噛み殺すボクの仕草に、チルノは目元だけで残虐そうに笑い、そしてボクのおちんちんをいよいよ一番深いところまで、飲み込んだ。頭を股の間に覆い被せるようにして、天井を指す棒を、喉の奥まで通すみたいに。

「ふぁぇっっっ!……っ♥」

 強い快感に声を殺せず、慌てて唇を噛む。チルノのバキュームフェラは喉奥飲み込みフェラに変わり、きっと本当に食べ物を飲み込むときみたいに嚥下運動をさせているんだ。亀頭が口の中よりも一層狭い肉筒に包まれた感覚がある、それはきっと食道だ。

 んごっっ! んっ、ぐぐっっ……! んぶっっ、くぼっ、ぐぼっっ……♥

 喉を締めてボクのおちんちんを握りしめてくるチルノ。そのまま、喉オナホになった体全体を揺すって、ボクのペニスを扱き上げる。キツい肉感はものを飲み込み食道へ送る運動を伴っている、ボクのおちんちんはグイグイとチルノの喉の奥へ導かれるような刺激にさらされる。ボク全部が、おちんちんからチルノの中に吸い込まれてしまいそう、何より、そのまま射精して、天国に飛んでっちゃいそう♥
 チルノの腕はボクの太腿にガッチリ絡んでいて、もう逃さないと言った風。チルノはボクのペニスを舐り、飲み込み、そのまま喉で扱き続ける。流石に苦しいのか、喉フェラピストンするチルノの顔は歪み、大きく開いた顎は少しばかり無様。呼吸はままならずに苦しそうで鼻からは鼻水がたれている。涙ぐんだ目は、それでもボクを愛欲の目で睨みつけていた。

「きもち、いっ……チー、これ、もう、射精、そう、射精るぅっ……っっっ♥♥♥」

 びゅーっっ、びゅっ、びゅううっっ♥

 ふご、んっ、んぶっっ♥

 喉で何度もキツく扱き上げられたペニスはあっという間に射精我慢限界を超えて鯊上がった。びくんっ、びくんっ、と射精絶頂に跳ね回ろうとする腰を、しかしチルノはしっかりロックして抑えてつけている。射精痙攣で跳ねることもできないおちんちん、アクメ中に最大感度を迎えているペニスを、チルノはなおも喉肉で締め上げて扱く。吹き出す精液を胃の中に直送しながら、残酷なほどの追い打ちフェラ。絶頂快感に更に快楽が重ね焼きされて、勘違いした脳みそが射精絶頂を持続させてくる。

「ふがっ、お゛っン゛ち、ちいぃっ♥ それ、それらめ、イッてるから、ちんぽもうイッてるからっっ♥ 食べないで、ボクのちんちんもう食べないで、飲ま゛ないでぇっっ゛っ♥♥♥」

 浮き上がろうとする腰を無理やり床に押さえつけながら、絶頂の上に更にクロック刻みでフェラ快感を押し付けてくる、抵抗、できない、脳みそが勝手にアクメ波を再発させて、射精快感を継続してくる。

「や゛だめ゛っ……イきおわんないっ、チー、それだめぇっっ……ちんぽ、こわれるっっ♥」

 びゅっっ、びゅうっ、どぶどぷっ♥

 チルノの喉を膣と勘違いして射精バカになったペニスが、必死に種付汁を流し込む。腰を押さえつけられ、張り付けられたボクの体を、チルノが貪る。喉膣締め付け快感に負けた射精はしばらく続いて、やっと収まった頃にチルノは満足そうに、また口の中で舌をねっとり絡め付かせてきた。

「はっ……はっ……、はあっ……♥」

 チルノの口の中でペニスは射精を終えて、でも勃起したままビクビクと余韻に焦れている。それを彼女はもう一回、唇を強く締め付けてバキュームしながら、ゆっっくりゆっっくりと、根本から先端へ向けて絞り上げる。締め上げ風味のバキュームお掃除フェラ、しかも、何回も何回も繰り返して、尿道の中に一滴も残さない決意を感じる。お掃除という名前の奉仕感は今の彼女のフェラには一欠片もない、貪りつくように精液を吸い出すニンフォマニアックイロキチ後始末トドメだ。

 ぶじゅるるるっっっっ、じゅうるるるるるるっっっっ!!! じゅぼぼっっ!

「ふあ、はぁぅっっ……んっっ♥」

 上まで登ったら、チルノの口の中には唾液と一緒に、尿道から吸い出された精液の残滓がたまる。それを器用に頬に溜めたまま、再び根本まで遡って何度も、何度も何度も、空っぽなのに何度も、吸い出し掃除。

「あっ、ち、ちー、また、そんなにしたら、またっっ……」

 びゅっ、びゅっ♥

「 〜っ♥」

 再び射精をキメてしまったボクに、満足そうな顔を見せて、お掃除フェラは振り出しに戻る。彼女の頬がぷっくりと膨らんで、あの中にはボクの精液とチルノの唾液の混合物が溜まっているのだと考えると、また、ムクムクとおちんちんが大きくなってしまう。チルノはそれにも嬉しそうに目を細めて、反復お掃除フェラオーバーキルを繰り返す。そのあともう一回射精してしまったけど、連続すぎて小さな噴火で終わった、彼女の口には三回分の精液と、それを求める涎がたっぷりと詰まっている。

 んーーーーっっ、じゅっ、じゅっ、じゅるるるっるっ……きゅぼっ!

 下品な音を立てて、ようやくチルノの口からボクのペニスが解放された。まだ勃起しているけど、きっとしばらく出ない。彼女の口の中で唾液と舌と喉と頬と顎の粘膜でお掃除されまくったおちんちんは、てらってらに磨き上げられてほこほこと湯気を上げそう。チルノは口を一文字に締めたままニンマリ笑って、指先でボクのペニスをつんっ、て突く。負けた、気分。負けたんだけど。
 チルノは、ずい、と身を乗り出して顔を近づけてくる。よく見ると一文字に結んだ唇の端にボクの陰毛が挟まっていて、それ以外にも鼻の周りやほっぺたにちりちり毛が張り付いている。何より彼女の顔は、いろいろな体液が混じり合った匂い立つ粘っこい液体でべとべとに濡れていた。それで、満足そうな表情で頬内に精液戸田駅の混合物を溜め込んで笑っているんだ、なんてエッチな顔……また興奮してしまいそうでボクはつい顔を背ける。すると彼女は両手でボクの頭を掴んで、まるで〝ちゃんとみろ〟と言わんばかりに真正面を向かせる。淫蕩汚穢顔で笑うチルノの視線と、視線が絡んでしまうと、また、興奮が……。そして、彼女はゆっくり口を開く。

「んぁぁ」
「う、わ」

 チルノの口の中には、白い精液と透明な唾液が不均等に斑を描いた液体が波打っていた。その中で舌が、淫らに蠢いてそれをゆっくりと掻き混ぜている。ザー汁唾液混合液の中にも陰毛が浮いていた、舌が撹拌すると毛が舌に絡んで存在感を増す。汚い。汚くて下品で、すごくスケベ。彼女の口の中から、くっさい精液の匂いが、漂っている。
 チルノの口の中から目を離せないボクを見て満足したのか、チルノはもう一回口を閉じる。そして、その汚穢液を口の中で何度も往復させるように、クチュクチュうがいを始めた。チルノの頬の膨らみが、右へ、左へ、そして均等に両方へ移動する。何度もそれを繰り返している間も、彼女はボクの頭を解放しない。ザーメンクチュクチュうがいを、見ていろという。何度も何度も執拗なほどに口の中で精液を転がし回った、きっと、ボクの精液はチルノの歯と歯の間にまで入り込んで、すっかりチルノの口中で泳ぎ回っただろう。そう考えると、無性に興奮した。

「……っ♥」
「ぷぁ♥」

 チルノはもう一度口を開く。さっきよりも強く精液の臭いが、チルノの口から溢れ出した。こんな可愛い女の子の口から精液の匂いが立ち込めるなんて、最低に汚らしくて、興奮してしまう。口の中は、さっきとは違って細かく泡立った薄白濁の液体溜まりになっていた。陰毛は未だに浮いている。それを、あーん、と見せつけてから、チルノはボクから手を離して人差し指を見せる。その人差し指は自分の口に添えられた。ここに、いまは、あるよ、そう言いたげだ。そして。

 ごきゅ、ごきゅんっっ♥

 飲み干した。
 喉を通るボクの精液を追いかけるように、チルノの指が口、顎、喉、胸、と降りていく。ボクはその指先に視線を吸い寄せられてしまうが、チルノはボクが目を離せなくなっているのを見て、口の端から陰毛をはみ出したまま満面の笑みを浮かべている。そして、指差す先は、胃のあたりに。
 そこまで到達した手と指がお腹のあたりで合流し、親指と他の指で作ったハートマークを、お腹の上に置いた。

「ごちそーさまでした♥」

 そう言って顔に貼り付いてるボクのチン毛を摘んで剥がして、まるでスナック菓子か何かみたいに、それも口の中に入れて飲み下してしまった。えっちすぎてクラクラして、ボクは何も言えずにただまた勃起させてしまう。チルノはにかーっ、と笑ってそれを手に取り握る。ぬらぬらのままのそれを一回だけ扱いて、掌を開いて先端を掌でナデナデと擦り、呟く:まだまだできそー♥
 チルノは布団を払い除けて膝立ちで立ち上がり、ボクのペニスの上に股の間を晒した。まだショーツを履いている、でも、前の部分は目に見えてじっとりと濡れていた。汁気で布地に肌に貼り付いているのが分かる。べっとりと濡れた前布部分は、その下に隠れた筋目にそって形が現れていた。

「あたいばっかりリグルのちんぽ舐めて、不公平だったな♥ みえる?」

 チルノはショーツの紐に手をかけてそれを下ろしてく。ゆっくり、指先から手首、肘、二の腕に肩、腰と尻の動き全部にくねる綾を付けて、幼い体型に淫らな曲線を強調する;未成熟の体が成熟した牝の振る舞いをするそのことに、逆に強い淫靡さがあった。ショーツを下ろし、布地と肉溝が離れ離れになろうとすると、名残惜しそうに、匂い立つ淫蜜が糸を引いた。

「やばー、すっげー濡れてる……♥」

 やばい、と言いながらチルノの視線はボクの方を流し見ていて、ショーツの布地とワレメの間にエロ蜜の糸が伸びるのを見せつけて、そしてボクの反応を楽しもうとしているようだった。当然、そんなえっちなものを見せつけられて、とくん、と心臓とおちんちんが高鳴ったのを隠し立てできるわけもない;チルノは満足そうに口の端を上げた。そして、恥ずかしそうに、言った。

「い、入れても、いいよ、リグル♥」
「えっ、そ、それはしないって、いってたじゃ」
「でもあたいのここ、準備、できちゃってるんだけど、なぁ……?」

 リグルのこれも復活してるし♥ そう付け足して下ろしたショーツから片脚を抜き取り、自由になった太腿を大きく開いた。いっぽ、と膝立ちの足をボクの顔の方に進めて、チルノはボクに蜜に濡れそぼったワレメを見せつける;それも、左右の手の人差し指と中指を淫唇に添えて、そのまま左右に開いて、膣の入り口まで。キツそうな肉穴が、ぬらぬら反射して、蠢いている。あんなの、気持ちよくないわけ、ない。

「いれないのかぁ? こんな準備万端の女が、おっけーしてんのにぃ」
「だって」
「ほら、いれてよ、なぁ、いれてくれよぉ…… ここ、こんなんなってる、からぁ」

 細い股を大きく開いて、薄茂りの下で花開いたそこは、つるんと丸くて綺麗なのに、見合わないほどの蜜に濡れている。入り口のピンク色は、ゆっくりと収縮したり広がったりを繰り返して、その度に、とろ、と汁を漏らした。その上では、生意気そうにツンと勃ったクリトリス。

「チー、だ、だめ、だって」
「いいじゃん……精子は出しても、また増えるんだろ……?」

 左右に腰をくねらせるようにして、押し広げた膣口を見せつける。蜜は止めどなく滲み出して、辺りには幼気の残る体つきには見合わない濃密な牝の匂いが立ち込める。普段のチルノとはかけ離れた非現実的な視覚情報、鼻腔に滑り込んでくる空気の味は色んな記憶を不正に引きずり込んでくる、それに

「リ・グ・ル……い、れ、て、くれよ♥」

 子供っぽい声で娼婦の科白を口にするチルノは耳からも理性を削ぎ落としてくる。それどころか彼女は、膝立ちから再び尻を突いてボクの脚の間に座り込む。足をボクの胴体の左右に投げ出すようにして、股を開いたまま腰を押し上げて、股の間にあるモノ同士を接近させていく。後ろ手を突いて浮かせた腰を上下に揺らして、ボクのモノにそのスジ目を沿わせて擦り付けてきた。にる、にる、とおちんちんの裏側に、粘液の感触がまぶされていく。白っぽく濁った分泌液が、チルノのクレヴァスから溢れ出てきていた。氷の妖精であるチルノのあそこは、だというのに充血したボクのモノよりも熱く感じる。ぬるりと愛液にまみれてもなお、じん/\とした熱が伝わって来ていた。

「ほら、リグル……♥ せっくす……せっくす、せっくすっ……♥」

 浅く小さく刻まれた呼吸の体温に、愛欲に濡れた湿度がある。幼さを際立たせる大きくまん丸の目は今は上半分が瞼に覆われ、垂れた眉にとろんと潤んで、ボクの姿を朧げに映し出していた。わざと舌を蠢かせてヨダレを垂らしてみせるチルノ、その口ではセックス、/\、と譫言のように繰り返し、蕩けた上目で物欲しそうにボクを見る否、実際に〝ほしい〟と明け透けもなく口にしていた。女の子がみだりに口にしてはいけないような、淫猥な言葉を、鼻の下を伸ばしながら連呼している。

「チー……だめ……」
「一発ヤっただけじゃわかんねえって♥ あたいだって言わないからさ。いいだろぉ? リグルのちんぽしゃぶりながら、もう、あたいの未使用子宮がズリ下りてきてんだよぉ♥ へその下できゅんきゅん切なくて、我慢キツいんだってばぁ♥」

 くねっ、くねっ♥

「でもっ」
「おまんこ、むずむずするんだよぉ♥ シテ、シテして、せっくす、せっくすぅ♥ リグル、ここのムズムズ、しずめてくれよ♥ ちっちゃいココにちんぽブッ刺して、ぬぽぬぽって、ホジってくれよぉ♥ せっくす、せっくす、しよぉってばぁ♥ ぬるぬるでキツキツのちんぽ穴だぞぉ♥ ほらほら、ほぉらぁ♥」

 チルノは腰を浮かせて、ほぐれて濡れて準備の整ったワレメの縁を、亀頭の裏側に擦り付けてくる。少し角度をつけて押し込むだけで、もう挿入できちゃいそう。でもチルノはボクに決断させる気なのかそれをしないで、ただえっちな蜜涎を垂らしながらおちんちんを加熱させて煽ってくる。幼なじみの年下の女の子なのか爛熟した年上の女性なのか、わからない上目遣いでボクを見て誘っていた。

「なあ、なーあぁっ、このちんぽはせっくすできないの? そのご立派なちんちんは見た目だけで、セックスできない無能ちんぽなのぉ? あたいのここは、ほら、もう白っぽいヨダレ垂らしてるのに、リグルのそれって使い物にならないんだぁ? なっさけなーい♥」

 スケベな開脚ブリッジで濡れ穴を揺らしながら、ボクを煽り立てるチルノ。鼻の下をだらしなく伸ばしてフワついた口元を半開きにしている。その奥では、まるで招き猫の手のように舌までボクを誘っていた。彼女の言葉一つ一つが耳から入っておちんちんのなかに蓄積していくみたい;ローリーやルーミアに比べても一際幼児体型のチルノが、発情剥き出しでひたむきにスケベな仕草で誘ってくる様子は、ムカつく位におちんちんに響いてくる。すぐにでも爆発してしまいそう。
 ボクは逃げるように立ち上がって、おちんちんとワレメの間のヌメリ摩擦から退避する。それでもボクは、もう誰の目から見ても受入準備が万端に整ったチルノのワレメから目を離せない。ひゅくん♥ ひゅくんっ♥ うぞっ♥ うぞっ♥ と蠢いて、男の来訪を待ち構えている。生唾を、飲み下してしまう。今すぐにでも、このスケベロリに覆いかぶさって、この物欲しそうな牝穴におちんちんを突っ込んで思い切り腰を動かして、精子をぶちまけたい。だって、チルノがそれを望んでるんだから、いいじゃないか。このキツキツのヌルヌルのおまんことセックスして、無責任に膣内射精なかだししてやれば、いいんだ……という誘惑と、絶望的な戦いをしてしまう。そうしたボクの葛藤を見透かしたチルノは、小さく嗤う。

「くすっ♥ じゃーあ……」

 チルノは今度はころんと背中に倒れて、大きく股を開く。両手で茂りの薄いズブ濡れ穴をくぱぁと左右に押し広げて、ボクの方を見て淫蕩に笑った。

「ここに、精液、かけろよ、それで勘弁してやるから♥ ほぉら、広げてやるから、ここに、据え膳食えない負けチン水鉄砲当ててみろよぉ♥ 据え膳食えない雑魚ちんぽ、オンナの中に入れない無能ちんぽ、卵子とお付き合いできない無駄撃ちザーメン、せめてこの発情メス穴の入り口で無残に殉職させたげなよぉ♥ くぱぁおまんこにザーメン射的、して、して♥」
「えっ……」
「あたいの濡れマン開きポーズ見ながらそこでシコって、見抜きザーメンここにぶっかけろってゆってんの♥」

 チルノの股スリから逃れて立ち上がったままのボク、ペニスは目の前のチルノの痴態を見て興奮冷めやらず勃起したまま。チルノは、ボクにこの場で、チルノをおかずにオナニーしろって、言っている。
 たぶん……できて、しまう。
 ほぼ素っ裸で、本気汁で濡れそぼった股を開いて見せつけている女の子が目の前にいて、ヌけないわけが、ない。

「ほぉー……らぁっ♥」
「くっ、う、ううっ! もうっ! チーなんか知らない、こんなの欲しいっていうから、悪いんだからねっ!」

 もう破裂しそうで、摩擦刺激を我慢して我慢して我慢し尽くしたおちんちんは、風の感触にさえ摩擦を求めて理性をゴリ/\削り落としてくる。その上から、チルノは更に、ドスケベ煽りを見せつけて、ぶっかけ要求をキめてクるのだ。我慢なんか、もう、出来るわけがなかった。チルノに責任を押し付けて良心を捨てて、理性も掃いて捨てた後ボクはおちんちんを握りしめ、先端をチルノに向けてそのままペニスをしごいてオナニーを始める。チルノのえっちな顔、鎖骨、おっぱい、おへそ、待ち構える淫裂を、舐め回すように見てオカズにし、興奮は睾丸で凝縮されて先端に導火線を引いた。

「ふふふっ、リグルが、あたいで興奮してる……♥ あたいでシコってる、あたいをオカズにして射精しようとしてるっ♥♥♥ いいぜ、ほら、ほらっ、ここだ、リグルの精子を受け止める肉マトは、ここだぜっ♥ ほらぁ、ほらぁぁっ♥」

 腰を浮かせて淫乱開脚ブリッヂを見せつけてくるチルノ。ボクがペニスを扱き手と肉棒の間に先走りの潤滑油が潤った頃、左右に淫唇を押し広げていたチルノの手は、ボクと同じ様にオナり始めていた。指先が膣口に入り込み、奥にある肉のどこかスイッチを探って押し込んだり、淫肉粘膜を擦り上げて快感を貪っている。愛液の分泌は量を増し、牝臭も濃くなる。お互いのオナニーを見ながら、オナニーする。チルノの淫溝からも、ぬちゅ、ぶちゅ、と下品な音が響き、時折エロ蜜の飛沫が跳ねた。ボクのペニスからも先走りが溢れ、にちにちと音がしている。お互いに、お互いの痴態を、舐め回すように見ながらオナニーに耽る。

「はっ♥ はあっ♥ り、リグルが、あたいでオナってる……♥ あたいのエロいとこみて、ぎらついた目であたいの無修正おかずにしてめちゃくちゃオナニーしてるっ♥ 推しが自分で見ヌきしてるとか、やばい興奮するっ……♥ あたいも、あたいもぉっ♥」

 チルノは途中から手淫を止めて、ボクの視界いっぱいに自分の淫乱ポーズを見せつけてきていた。ラヴィアを押し広げてクリトリスを剥き、ぷりぷりに張り詰めて蜜を垂らす無防備な濡れ陰部を開いてボクの射精を待っている。彼女は手淫をしている訳じゃない、どの穴にも触れていないし、粘膜に刺激も加えてない。ただ、ボクがオナニーしているシーンを発情した雌の目で見ながら、呼吸を浅く細かく振るわせて催淫ガスみたいな息を吐いている:半開きの口はまるでフェラチオをしているみたいに唇が舌が蠢いて唾を攪拌している:瞼が重そうに垂れた目は欲情色に染まって潤みボクのオナニー姿だけを映している:腰が淫らにくねって躍り中央で開いた肉花はいよいよ震えている。チルノが、えっちすぎる。
 ボクはもうオナニーの手を止められなくなって、おちんちんを必死にしごいていた。性欲に負けて、目の前で女の子が見ているのも気にせず一心不乱に射精に向かってしまう情けない男、そんな謂われももう慣れてしまっている、だって気持ちいい、おちんちん気持ちいい、目の前でこんなえっちなメスガキに煽られて、おちんちん欲押さえきれる訳ないよ♥ なんとか挿入だけは我慢してオナニーしているものの、襲いかかられたら拒否できない。

「リグル、リグル……♥ あたいで、あたいで射精しろ……♥ あたいで、あたいのおねだりポーズで見ヌキ射精しろぉっっ♥ ここに、ここにぶっかけろっ♥ キンタマに溜込んだ濃厚ザーメン、ここにびちゃびちゃかけてみせろよおっ♥ まってる、まんこが待ってる♥ リグルの精子が入り口に垂れてくるの、待ちかまえて、きゅんしてるっ♥ 精液どばどばぶっかけられたら、ザー餓えまんこが必死に口ぱくつかせてザー飲しようとしちゃうに決まってるぅ……♥」
「チーっ、エッチすぎるよぉ♥ どこでそんなドスケベせりふおぼえてくるのさあっ♥ そんな科白で鼓膜犯されたら、ボク、ほんとに止めらんないよおっ♥ チーの淫乱誘惑に逆らえないぃっ♥ チン扱きしちゃう、オナニー止められないっ♥ 男のくせにちんちんが我慢汁でぐちゃぐちゃになってる、欲しがってるぅっ♥」
「ほら♥ もっと近づけて、もっと至近距離まで来てっ♥ 挿入しなけりゃ、先っちょくらいは擦れてもいいだろっ♥ ぱっくり割れたロリまんこの粘膜、リグルの限界我慢ちんぽの亀頭でこすっちゃえよぉっ♥ ほらっ、ほらほらっ、無防備な生まんこに向かってぴゅっぴゅしろよぉっ♥ 」

 チルノが腰突き出してくるのに向かってボクも立ち膝になってそれを迎えてしまう、恋人同士が人目を避けた逢瀬を迎え抱き合うときみたいにじっとりとした時間を燃やして、ボクのペニスとチルノのヴァギナが出会う、触れる;でも、挿入しない。にゅる、にゅる、と開けた媚粘膜の、襞打った表面に、我慢にむせぶ肉棒の先端をこすりつけては、突き進むベクトルをすんでのところで上に逃す。亀頭の裏側、雁首の縫い目の膨らんだ部分が押し広げられたラヴィアに舐め上げられて、ゾクゾクと快感が体中を這い回る。性欲電流の蟻走はその足跡に焦燥感の火種を植え付けて、それら一つ一つが合流して体中を燃え上がらせる。早く射精したいと、ペニスの先端から脈々とつながる快楽伝達神経を伝って脊髄の全部を引きずり出すほど射精したいと神に祈るような気持ち、その懇願と祈祷の巫女が目の前の女だ。
 夢中になって濡れスジをペニス先端でなぞり往復し続ける。ぬらぬらの源は尽きない、ボクの先走りかもしれないし、チルノの藍液かもしれないし、いやきっと両方だ。ボクもチルノも、チルノに、ボクに、欲情して、性欲で衝突してる。その衝動に向かって暴走してる。でないと、こんなこと……。もう。射精したい。射精したい。射精したい。それしか考えられない。ペニスの根本を強く掴んだまま強く扱き上げ、先端を彼女の女性器に押し付ける;でも挿入にならないようにギリギリの我慢で制御、地獄のような天国。苦痛のような快楽。炎のような、彼女は、氷。

「チー……もう、だめ、もう射精る、でちゃうっ……♥ あ゛ーっ、あぁあ゛ーっっ♥♥♥」

 どぷっ、どぶぶっっ びゅるっ びゅっっ びちゃっ びちゅっ びゅーっっ……びゅっっ

「うわ、すっげえ、射精たぁっ♥ さっき空っぽになるまで出させたと思ったのに、リグルのザーメンパワー、侮れないっ♥ メスへの種付に命賭けちゃうつよつよキンタマポテンシャルだぁっ♥ ふわぁぁっ、射精水圧、スゴっっっ♥♥♥ 我慢に我慢重ねた圧縮ザー射っ♥ あはー、残念っ♪ ここにウジャウジャ精虫いるのに、ぜーんぶ無駄死にw オンナの中に入れないちんぽなんて、まんこの外で干乾びる無駄死にオタマジャクシを吐き出すしかない、不能ちんちんだよねー♥ あーかわいい、かわいいっ♥」
「ううっ、あ゛、あぁぁ゛っっっ♥ なにがかわいいだよっ、もっと、もと射精すっ♥ 淫乱なチーに、もっとぶっかけてこらしめてやるっ♥ 全身ザーメンまみれになって、オスの印で、よごしてやるっ♥」
「うっわ、すっげえっ♥ あたいのまんこ、ぷりぷりのゼリー状精液で完全に蓋されちった……♥ よごされちったぁ♥ まんこがキュンついて口開いちゃってるぜっ……♥ ガン下り子宮が精液ごっくんしようとしてるっ♥ なに? まだ射精すの? 必死にシコってあたいにもっとぶっかけようとしてるの? それ、なんか嬉しいっ♥ 愛を、感じちゃうっ♥♥♥」
「はーっ、はーっはーっ チーの股の間、真っ白だ……どうだ、思い知ったか、スケベ妖精……っ♥」
「んふっ、ぁ、はぁっ♥ おもいしっちゃった、リグルの射精がサイコーに可愛くって、エロいの、おもいしっちゃったぁっ♥ ふふ、ぶっかけられただけなのに、今、あたい、すっげえ幸せ来てるっ♥ きゅんきゅん通り越して、ゾクゾクっ♥ ゾクゾク通り越して、あ、これ、これ、もしかして、挿入なしで妊娠出来るんじゃ……♥ はっ、はっ……♥ あれ、あれ、あたい、やばっ……これ、イきそうなんじゃねえ♥ ぶっかけで、イけちゃうのかよっ♥ あたい、リグルのザーメンぶっかけでアクメできんのっ? やばい、やばいっ♥♥♥ クる、クるっっ♥ り、リグル、みて、みてっあたい、あたい、バカだけど、バカだけど頭イき、するっ♥ 空っぽの脳みそで、脳イきするからっ、見てて、みて、みっ……」

 すうっ、とチルノのヒョウジョウキンから力が抜けるのがわかった。鼻の下が一層だらんと伸びて、元から半開きだった口の中で舌がいよいよ脱力する。だらー、と涎が糸をひくと同時に、ぐるん、とチルノの目が、寄った。

「ン゛ッ゛、あ、ヲぉ゛っっん゛っ♥♥♥ い、イ゛きゅ゛ぅっっ♥ 脳イひ、しゅっご、ぉをぉっっ♥♥♥ こんなの、こんらろひらない゛っ♥ オナニーれこんらの食らっらこと、に゛ゃ゛ぃぃっ♥♥♥」
「ち、チー、エロ過ぎ……なに脳イきって……ただのドスケベ女じゃん……♥ ああっ、たまんないっ、チーがエロすぎて、もっかいヌくっっ♥ ふーっ♥♥♥ ふーっっ♥♥♥ 射精る、もっぱつ、でるっ♥ くらえ、くらえっ淫乱メスガキっ♥♥♥ ぶっかけでよければいくらでもしてやるからぁっ♥♥♥♥ 頭イきして、脳みその中までマン汁でべちょべちょになっちゃえっ!」
「ん゛ほぉ゛っ♥ またキひゃぁっ♥ クサいうじゃつき精虫があたいのこと求めれるっれ考えらら、もっかひクるっ、脳みほひビリビリクゆっっっっっ♥♥♥ イひゅ、長いのクゆ、強ひのクる、おっきーのくりゅっっっ♥♥♥ ぉ゛っっっん゛っッッ♥♥♥」
「チーがえっちすぎて、ボクのおちんちん、精子全力再生産中になっちゃってるよぉっ♥ もう一発、かけるねっ、チーぃっ♥ っくっっ、ぁ♥♥♥」
「また、またかけられっ……また、イグ、いっイ゛グ、イグぅぅぅ゛ん゛ー゛ーー〜〜〜〜〜っ゛っっ♥゛♥♥♥♥♥゛……んヲ゛っ…ほ、ひっっ…………ぁ゛…………♥」

 マンズリもクリいじめも乳首愛撫もしていないチルノが、ボクの精液を体表に感じただけで、腰をガクガクと揺らして、アクメに衝き落ちている。ヨリ目で涎を垂らしながら、淫裂をくつろげる手だけにはしっかりと力が残っていて、開かれた内側に見える襞肉が別の生き物みたいに忙しなくそれを飲み込もうと蠢いている。そして、かくん、と糸が切れたみたいに腰が落ちる。布団の上で荒い呼吸を繰り返しながら、大きくガニ股を開いて倒れたまま、ぴくん、ぴくん、と痙攣しているチルノ。この光景だけでも、またヌけそう……♥

「はーっ、はーっ……チー、イッた、の?」
「みりゃ……わかるらろぉ……♥」

 とろとろに溶けた声で答えるチー。散々ボクのことをイかせてたのに、彼女はまさかの頭イきなんて。なんだかズルいし、それ以上に、エッチすぎてズルい。
 こうなっちゃったからには仕方がない;ボクは彼女の体をタオルで拭い、汚くなっちゃった部分を、せめてできる範囲で掃除する。朝までこうしててもらう訳には行かないけど、と前置いてから、彼女を横に寝かせた。うう、罪悪感がすごい。
 チルノは、息を整えながら横に並んで、ボクを見る。甘いピロートークでも始まる、と夢を見たのはそれこそ甘くて。不機嫌そうに尖った三白眼が、ボクを睨みつけてきた。

「いれて、ほしかった……」
「だ、だめだってば」

 ボクがそう答えると、目を閉じて、しばらく黙っている。そしてつぶやいた。

「……そっか。あたいじゃ、だめなのか」

 横に並んで横たわり、ボクの体へ抱き枕みたいに腕を回して寄り添ってくるチルノを、ボクはそっと引き剥がす。彼女は意外にも強い抵抗を見せないまま、ボクの体からおとなしく離れていった。するりとボクの布団を抜け出して立ち上がり、扉を開ける。

「ばか」

 こちらを見ないまま小さく呟いて一拍止まる;でも追ってこないボクにしびれを切らすみたいに、ふん、と捨てて出ていってしまった。
 きっとこれでよかったんだ、最後の一線は:自分に言い訳しながら、想像以上に積極的に迫ってきたチルノを思い出して、また勃起してしまう。それでヌいたら流石にだめだ、なんとか堪えて眠りにつこうとしたが、案の定なかなか眠れずその日の夜はやたらと長い夜になってしまった。
 この後、チルノ体にあんな事が起こるなんて、このときは全然思ってなかった。そうか、彼女の中の熱は、取り返しのつかないことになっていたんだ。
 窓を制御できなくなっていたに違いなかった。




# □古今という施設

 余りにも場違いなその立ち姿は、写真に写してCGだと言われても合点してしまいそうな光景である;陰樹がまるで綿菓子の表面のように手指を広げ鋭角な岩土の山肌を柔らかな曲線の重なりで完全に覆い隠した森深い山体に、その緑の衣から突き出す形で姿を表す直線的な輪郭を白い肌に塗り込めた立方体は魔法で突如として出現したモノリスのよう;周囲の視覚情報に対して全く文脈を欠いていた。まるで高次文明の顕現、あるいは現文明がそれを目指して模倣したもののようで無機質だが現代の血が通った冷ややかな生々しさを湛えて見える。だがそれに反して、その建築物は、今は廃墟だった。

「国土地理保全庁、エネルギー戦略局の者だ、本施設の視察を実施する。代執行権を委任されている。令状はこの通り:資源永続法、特別民法362条52項附則及び破壊活動防止準法の抵触容疑である、拒否は出来ない。」

 その真っ白い廃墟塔の麓にぽっかりと口を開く、無機質だが文明感もないコンクリート打ちっぱなしの入り口とその片側に備え付けられたガラスの目。遠くから見ればロマンあふれるSF的構築物だが近づいてみれば廃墟と知れるビル、その下で口を開けっ放しの地下孔入り口も、その場に足を運んで見れば、市街地の駐車場の出入り口付近にある小さな管理人室のようなものでしかないと知れる。
 この施設専用の透水性舗装は潔癖に綺麗……というわけでもなく、雨風に触れるに妥当な姿をしていた。水はけのための多孔質な表面には砂利が落ちたり変色も見られる。脇のブロックの継ぎ目には蟻が歩き雑草が顔を出していた。ほとんど車の往来がない道の路面標示塗装はひび割れており、しかし往来の少なさゆえに重視されておらず塗り直しもされていない。詰め所となっている埋め込み部屋の小窓には、高齢者再雇用の対象だろう守衛が間抜け面を見せていた。遠目に見たときの近未来ロマンのかけらもない。そうして相応にボロの見えるを出した口へ入り、下へ降りる螺旋状の地下道を車はとろ/\と進んでいく。
 ドライブスルー式の顔認証と車輌認証を行うカメラとセンサ。認証をパスできたことからこの二名は招かれた客なのだと分かる、電子制御された壁埋込と掲示板を併用する無人誘導灯に促され、全く車の影がない閑散とした駐車場へ通された。薄暗いledに照らし出され寒々とした、実に駐車場らしい空間。非常灯の緑色がやけに目立ち、その冷たい光が人気のない空間から更に人の気配を取り除いていく。湿気の籠もる空気も冷たい空気に拍車をかけているようだった。地上の透水性舗装と違い水はけが悪いのか、アスファルトの凹みには水たまりが残っている。ヒビも見えるし、砕けた路面の補修にも潔癖さはない。反響する音、外は暑いと言うのに肌寒ささえ感じる空気。ここが地下空間なのだと思い知らされる。駐車場から施設内部へ続く連絡口を探し当てその奥へと進んだところで彼等は、その出迎えと対面する――雲月築だ。男達は僕の目の前に紙を一枚、叩き付けるように見せつけてきた。それが、今のこの状況だ。
 それはわかりましたが:僕は目の前の紙を指先で避けるようにして男の表情を確認する。

「あなた国土地理保全庁チホじゃないですよね。いらっしゃったのは、世界連携政府の意向ですか。」
「答える立場にない。」

 僕が言うと、男は不機嫌そうに表情を変えた。僕はわざと大げさに肩をすくめてみせる。男達が見せた令状を覗き込むと、資源永続法の記載があった。エネルギー問題と環境問題の細い綱渡りタイトロープを求められる中で定められた、エネルギー資源を国家が計画的に運用するための周辺法律だ。たとえば無断で地熱発電を行った場合にも課されうる;それも含めて、不正に国土からエネルギーを抽出することを禁しているものだ。20年以上前から、大規模地熱発電は国際的に嫌厭されていた;プレート運動を阻害しないためであるとか地盤保全が謳われているが、勿論そのような影響を生じるには相当に巨大な穴を要するし、そんな巨大な地坑を掘らなくとも、せいぜい商業発電クラスの熱エネルギー採取は可能だ。こうしたエネルギー関連法の多くは科学的に誤謬ファクトレスである。そもそも日本国の法律にはそのような具体的な記載はない、世界連携政府の意向を汲み日本国政府が行政主導で法の読み替えを行っているだけだ。原子力発電はともかくとして大規模地熱発電が〝慣例的に〟禁止されているのは、新エネルギーを独占的に扱う新エネルギー関連多国籍企業連合グリーンメジャーの権益確保に応答するためでしかない。国のエネルギー政策の要点である新エネルギー戦略に国土地理保全庁が関わるのはわかるが、彼は恐らく政治にもエネルギーにも興味がない人物だ、どちらかと言えば。

「そういえば、八雲さんには久しくお会いしていない、お元気ですか?」
「言っておくが、コネを使って揉み消せる段階では――」
「祭祀が、世俗の資源に何のご興味がおありとは。あなた、神社本省の方でしょう?」

 男はそれ以上答えなかった、沈黙は一時的には肯定の回答とみてよいだろう。まあいいでしょう:僕は答えて男たちを迎えることにした。無用意というわけではない。〝揉み消せる段階ではない〟と男は言った、ならば、今はどういう状況なのだろうか。今更、何をどうしようというのだ。方って置いてくれれば良いものを。僕は男たちにゲスト用のIDカードを発行して、中へ招き入れる。

「捜索ではなく、視察とおっしゃいましたが」
「本日時点では任意の聴取と施設視察のみだ。但し、こちらが指定したものについては、証拠隠滅阻止対象として現場保存させてもらう。」

 恐らく、神社本省もエネルギー政策自体には興味はないはずだ;ならば神社本省が得たがっているのは、茅野ちのだ。八雲さんを欠いた神社本省は、どの程度までここのことを知って、手を入れてきたのだろうか。彼はもう神社本省から退き、茅野ちのから手を引いたはずだった……否、引かざるをえなかった;あの件はもう、終わったはずなのに。

(これ以上、一体何を取り上げようっていうんだ、彼女から)

 口惜しさを、しかし表情に出すわけにも行かず、ただ淡々と視察団を受け入れるしかない。視察団として送り込まれた男達のことなど、僕にとってはどうでも良かった;神社本省そのつもりで送り込んできたのだろう。恐らく単に、告知か、布告か、そうしたものの一つの形態として儀礼的にそうしただけだ。

「拒否はできないのでしょう? でしたら〝どうぞ〟と丁重に招き入れる以外にありませんね。」
「アポは受け入れられたと認識している。」
「ええ、間違いありません。しかしここはただの研究施設です、それもあなた方の仰るような核分裂だの融合だのといった爆発的な高エネルギーは扱っていません。ラジオアイソトープバイオ発電を主眼に置いた実験施設です。」
「核施設ではあると」
「放射線は扱っていますが、核施設とは言い難いですね;一般に、レントゲンを備えた病院を核施設とは言いませんよね。部分的には、という点では、認めましょう。その点について認可は得ています。証書をご覧になりますか?」
「把握している。」
「それは話が早いことで」

 今でもはっきりと思い出せる。八雲さんが、茅野ちの犯したあの出来事を。神社本省は、八雲さんから茅野ちののことを申し送られてはいないはずだ、そういう約束だったから。勿論契約書を交わしたわけでもない、タダの口約束だし、それが保護にされたからって公権に訴えを立てられるような内容でもない。だが、お互いに、深刻な痛み分けとして、不可逆的に、決着した筈だ。その証が、今の〝古今〟この施設なのだから。ならば、神社本省は独自に疑いを持ち、アクセスしてきたということだろう。

「ラジオアイソトープバイオ発電、とは何か聞かせてもらおう」
「それは、聴取の一環として聞かれていますか。それともあなたの個人的な興味から」
「両方だ、と言っておく」

 神社本省が〝古今〟ここに何らかの嫌疑をかけていて、そうして実際に手下を使って動き出したというのなら、既にここが何の施設になってしまっているのか、凡そ見当はつけられているに違いない;今更それを聞き出してどうするのだろう、という印象もあったが、そもそも僕が神社本省を買い被りすぎているだけで実際には茅野ちのに到達していないのかも知れなかった。なら、ここは表向きの(但し嘘ではない)説明は尽くしておくべきだろう。

「80年代に第二次大量絶滅期が発見されたのと同時に、大深度生命叢DeepBiomeが本格的に分析されその全容が明らかになりました。その中に、大深度地殻に含まれる自然放射性体から長期間発せられる放射線によってエネルギーを得る化学合成細菌が発見されています。語弊を恐れずに言えばミドリムシのような者達です。……こういう話になりますが、よいですか」

 男は、続けて、のジェスチャーを小さく振る舞う、僕は促されるまま続ける。

ミドリムシユーグレナは可視光からエネルギーを得ます;つまり光合成ですが、この微生物は可視光ではなく放射線によって光合成する虫、と考えていただければイメージしやすいかと思います。〝地底ミドリムシ〟を線量調整された線源の傍で飼育すると、彼等は自然界では得られない飽食を得て高速で増殖します。それをバイオマスエネルギーとして確立する、というのがこの施設古今の目的です。」

 話しながら歩き、様々の小施設の横を通り抜ける。〝加圧飼育室〟は説明中のミドリムシ遠縁生物を、元の生育環境に近い状態で保つもの。〝搾油系〟は十分に放射線を喰って肥えた彼等から、有機物を抽出する施設だ。その他、彼等の放射線以外の餌を用意する施設、ユーグレナ廃棄物をサイクルして大部分をその餌に戻す処理施設、など、全て商業化前提の小型規模で再現された機構がそれぞれ存在している。それらの施設の内容を一つ/\説明しつつ、ラジオアイソトープバイオ発電実験室〝古今〟の基底をかぶせていく。と、男の一人が割り込むように言葉を挟んでくる、瞳の中には疑いの色を秘めていた。

「新種の植物を扱っていると聞いたが。」
「昔は植物から新繊維を開発したり、珍しい植物から未知の化学成分を分離したりしていましたが、当時の社長兼技術主任はもうおりません。前責任者の退陣と共に、古今は方針を転換しました。山に突き出た煙突みたいなビルはその名残です。今は全く使っていませんが、取り壊すにも先立つものが、という状況です。」
「〝フロラシャニダール〟という言葉に聞き覚えは」
「さあ。聞いたことがないですね」
「あらゆるものを氷に閉ざしてしまうFrozen雪の女王のような女がいるとか」
「存じませんね、ディズニー映画の見過ぎでは? ……今の古今の話はもうよろしいですか」
「ああ、悪かった悪かった、いじけないで続けてくれ」

 ――なるほど?

「わざわざバイオマスに変換する意味、つまり線源をそのままRI電池として用いることに対するメリットは、エネルギー変換効率が極めて高いことです。一般にRI電池のエネルギー効率は20%程度といわれていますが、この〝地底ミドリムシ〟は実に40%もの変換効率を見せます。従来のRI電池よりも遥かに効率的に、線源のエネルギーを抽出することが出来るのです。」
「40%を抽出できたとしてもだ、壊変によるエネルギー散逸なんて時間あたり大した量にならないんじゃないのか」
「ご明察。なので、我々のこれはまだ、商用化出来ていないのです。しかしより寿命が長く安全性の高い放射性物質で同等のエネルギーを確保できることには価値があります。抽出されたエネルギーを〝活きの良いまま〟移動させることが出来ます。……新鮮なエネルギーは仕事量も優れていますしね?」
「エネルギーは仕事量と等価だ、新鮮も糞もあるか」
「ははっ、冗談ですよ。その通り、常識です;エネルギーは不正に増えない、あるいは、不正に散逸を免れたりしない。」

 常識では、ね。一通りの説明は終わりだ、そう言う代わりに、会議室の前で立ち止まる。ここを一日お使い下さい。そのIDがあれば、施設内はほとんど自由に移動できますから、視察ならご自由にどうぞ:そう言って会議室の扉を開いて中へ促す。ただの会議室だ、外部ワイヤドwwwとのアクセスポイントと、施設内イントラのアクセスポイント(勿論彼等にアクセスは許可していないが)が共存しているし、コピー機や外部ディスプレイもある。不足はないだろう。男達は僕が促すのに素直に従って会議室へ入り、テキパキと視察拠点を設営していく。

「ここからは完全に余談です。この〝地底ミドリムシ〟は、体内の様々な回路を経ますが最終的にはβ線から電子受容体へ直接電子を受け取り、ATPとNADPHを作っていることがわかっております。一般に大深度生命叢DeepBiomeに存在するのは長寿命の代わりに超省エネで生き続ける細菌と云われていますが、彼らは違います;極めて大きな代謝とエネルギー、早い世代交代、放射線により常に変異を強いられる遺伝子、結果として大深度生命叢DeepBiome内ではかなり高度な〝文明〟を持った、地下世界のプレデターとなりました。まるで原始の人間が川沿いに文明を築いたのと同じ様に、彼等は放射線源の傍では支配的な存在ですが、彼等は他の生命、主として細菌を捕食する能力も持っています。ミドリムシと同じく肉食性を持ち併せますが、彼等の場合は恐らく、放射線源から離れた場所でも活動するための貪欲さ故の進化です。我々の知らない深い地下での弱肉強食を彼らが生き残った理由は、この高効率なエネルギーによって他の生物の勢力を圧倒したことにあります。」
「簡単に言えば、核分裂だの核融合だのといった爆発的なエネルギーは、ここではまだ扱っていない、ということか」
「ええ、ですから最初にそう申し上げた通りです。ここにあるのは、グリーンメジャーが特権的に行っている原子力発電の廃棄物を、更に希釈したゴミだけですから。本格的な各施設には、まだ遠いですよ。」
「商業発電を行っていないと言っていたが、どうやってこの施設と職員を〝食わせて〟いるんだ。まさかここの職員は全員〝地底のプレデターに変異した〟という訳ではあるまい」
「お答えしなければならない?」
「ここで答えずとも、強制捜査が入ればすぐに分かる。State Enargy Company of Hokkaido Republicと取引の履歴があることは把握している。」
「ならよいではありませんか、というのも意地が悪いですね。先程、放射線源の壊変によるエネルギー散逸は大した量ではない、と仰っていましたね;それはその通り。ですが単純に、ここにはそれを並列化・多重化するための在庫がたんまりあるのです。」
「なに?」
「State Enargy Company of Hokkaido Republicは北海道から東北、北関東までを商圏に捉えており、我々の研究はそれ自体が商材になります。」
汚れた錬金術汚染と利権……?」

 そういうことです:僕は答える。男は怪訝そうに眉間を寄せた;なにせ、核反応エネルギーはグリーンメジャーが特権的・特例的に一部運用しているだけで、現代、基本的には禁忌のエネルギーだ。ここで扱っているRI電源とそうした核反応エネルギーとは全く性質の異なる原子力エネルギーと、現代では整理されている。だが、突然現れた、核反応エネルギーのドブ浚い行為に、男は忌避感を示したのだ;普通の人間の反応である。

「あなた方の視察が獲得した情報は、こうだ:古今は、青森に保管され続け忘れ去られた負の遺産を引取る〝能力〟を商材としている。私達は、ミドリムシに核のゴミを食わせて、比較的安全なエネルギー源として利用する研究をしています。」




# □Albedo

(何だこのアバターチャット……)

 八雲は、巷間声高に喧伝される先導的なニュースを見ているのと対して変わらない、呆れたような気分に苛まれる。これが〝賢者〟と呼ばれる者達の会合で、あるのか。彼の目の前には、何世代も前のアニメで使い古されたような絵面が展開されている。二足歩行の金眼銀眼猫:肌色分の多いエルフ耳美少女:陸に打ち上げられてのたうつ魚:赤い数字を刻まれた黒い板:黒人筋肉ダルマ:甘いマスクの長身男性。当の八雲は、自身の姿を使用していた;まともなのは彼だけのように見える。辟易とした気分を押し殺して、円卓に付いた。円卓に付いた参加者の異様ぶりは姿だけではない、ボイスチェンジャーを使用して声の果てまで作り変えている。八雲の手元にある情報によればここにいるのは、一人が女性であることを除いて全員が男性で、少なくとも全員が40代以上である。そしてこの会議は、非公式ながらも議題自体はまともである……はずだった。とてもそうは思えない。

「古来から実施されてきたオゾン層復活運動は、大きな誤謬を孕んだまま熱狂に基づき継続され、そして誤った姿のまま、いよいよ行き過ぎました。今やオゾン層の厚みは十分ですしかしどうでしょう、この地球を覆う大気の厚さは温室化を加速させ、依然として地球の熱収支を狂わせ続けています。」
「資本家、特に工業分野の経営者や投資家の間に疑似科学の信奉者が多いのが現状だ。この温暖化はガイアの意志だだの、オゾン層の復旧と温室化は不可分だっただの、あの雲は繰り返されたケムトレイルの成果だの、温室化を止めるにはあの雲をもっと厚くして正常化するしかないだの」
「当時無害と言われていた大気成分に飽和濃度を超えると温室効果を持つものがあった;その事実が判明してもなお、その支持は根強い。彼らの動機は正気の沙汰じゃない、だが影響力が大きすぎる。」

 既に会議は始まっており、声色を変化させない自動音声翻訳サービスを使用して、猫が、鮪が、板が、会話をしている。喋っているのは殆ど裸に近いビキニのような服を着た美少女だった;声も、甘ったるく鼻にかかったどこかの声優のような女性ボイスになっている。八雲の手元の情報によれば、53歳の男性だったはずだ。ついで喋っているのは猫。それに、少女漫画に出てきそうな男性キャラのアバターは、多分42歳の女性だったはずだ。映像の選択を責める気はないが、得も言われぬ気分で八雲はそれらの意見を耳に入れている。せめて、目は瞑っていた。

「資本家は科学者じゃないんです、情報化社会、自由経済社会においては彼らもまた情報に消費させられる側なのですから。むしろ情報やかねに踊らされる分、貧民よりもバカなことさえある」
「市民の多くは、科学なんかに頼らず経験の上から感づいていますよ;冬を殺し夏が助長れたこの異常な気候が、常に空を覆う異常な雲のせいだって」
「通常、雲は星の反射率アルベドを向上させ、熱収支を負方向へ向かわせます。その点では、雲を正常化すれば温室化は解消する、という意見は正しい。ただ、雲そのものには温室効果があるということが見落とされている。」
「だから、地上にに反射板を作ろうという話になったんじゃないか。赤道付近に高反射体を多数配置すれば、今からでも自ずと熱は下がる」
「その建造計画は今どうなっている。複数の国にまたがるせいで、土地の確保さえままならない。世界連携政府なんて、政治上は発言力があっても、現地の泥臭い取引においては〝着飾った無能な女王〟でしかない」
「まずはの復活だ。赤道付近の開発利権に比べれば、極地保護条約はまだマシな方だ。それに、熱収入の大きい赤道付近で反射を促進すれば、温度変化は劇的になり制御が不能になる。買い取った土地をすぐに手放してしまうことになればただの土地の空売りとみなされるし、また紛争の火種になる。疫病も次から次に出てきて手に負えないというのに。」
「かつて温暖化が騒がれた時代が平和に思えるくらい、既に逼迫している。このままでは誰も核ミサイルのスイッチを押さず、平和裏に地球は滅亡するね。」
「こんなわかりきった話をもう一度繰り返すために集まったわけではないだろう」

 〝ただの板〟はそう言い終えたところで、突然リプライを飛ばしてくる。せめて視線の動きくらいは欲しい、いやあの板に目だけが付いていたら気持ちが悪いか。そう思い直してため息を飲み込む八雲。〝板〟の中の人間の現実世界リアルワールドでの姿を、八雲は知っていた。この〝賢者〟の中で実際に交流のある人間は〝Murder〟と渾名ハンドルされる一人だけ。日本在住同士だからであるが、それ以上の情報は持っていない;それは、この場にいる全員がお互いにそうだが、政治に影響チョットデキルといった人間同士であるという最低限の情報だけが、共通認識されていた。この会議は、そうした性質のものである。

「〝ハーン〟さん」
「はい」
「あなたならこの事態をどうする;この地球を、第二の金星にしないために。」
「Murderさんも無茶を仰る。残された時間は少なすぎるというのに、人間はこの体たらく。だったらもう一度核のスイッチを押して、滅んだ理由を付ける方が楽ですよ。」
「それでは困るからこうして、集まっているんじゃないか。〝賢者〟として、何かないのかい?」
(い、板に凄まれてもね……)

 〝Murder〟と渾名ハンドルされる一人だけではない、この場にいる全員から、〝八雲ハーン〟に求められている答えは、一つだった。全員の注目が集まり、それまで胡乱にも聞こえる喧騒であったチャットルームが、時間を止めた回線切断されたように静寂で満たされる。

「皆様、5年前に回収した神妖かみさまのサンプルについての報告を期待されているのだと思いますが……我々は隅々まで通常の人間との違いを解析しましたしかし、何一つとして有意な差を検出できていません。彼女は、解剖学的にいや、分子構造的に、完全に、人間です。」
「そんな筈はないだろう、ならばあの破局災害はなんだったのだ。まさか神妖かみさまと間違えてただの人間を拉致したと言うんじゃないだろうな?」
「それはありえません。現に粒子束縛現象パーフェクトフリーズ封入区画シバルバー内で現在も続いているとの報告を受けています。」
「報告? ハーンさんの管理下にあるわけじゃないんですか?」
「私達にできる解析は、し尽くしました。その残滓を欲しがる者がいたので今は管理を任せています。管理させているだけなので必要があればいつでも接収できますが、その必要が生じるとは、到底思えません;あの神妖かみさまが人間と相違なく、現在の科学で解明出来ないとのエビデンスは、既にお渡ししたつもりです。何かご指摘でもありましたか?」
「あの子供が仮に人間だったとしても構わない、粒子束縛現象パーフェクトフリーズの原理を突き止めるのが君の仕事だったろう」
「ですから、それは徒労に終わっています。最早あの娘は、あのように封入して置く以外にない。謂わば核のゴミと変わりありません。核のゴミを無害化する技術は、まだ確立されていない。それと同じことです。」
「だが。核によって熱を生み出す技術はすでにある。同じことにはなるまい」
「神社本省も、CIPHERとやらも、今や〝神送り〟だけが仕事ではない」
「高いカネを払ってるんだよ、日本国には成果を上げてもらわないとねえ」
(うちの国には来ないように食い止めておけってことだろう、クソッタレ。どうせ日本でどうにも出来ないとわかれば核をぶち込むつもりなんだろうが)

 八雲はふざけたアバターを着ぐるむ〝賢者〟達に向けて憎々しい心境を渦巻かせる。だが、彼にはそれを口にも表情にも出さないだけの、ある種の余裕もあった;それは不明破壊活動主体神妖の目的が日本国内に完結しているだろうという予測からくるものだった。それと、例の子供つまり、茅野ちのについての、見解だ。八雲が神社本省にあった頃、彼は、茅野ちのを分析し尽くした。人間の持てる科学技術のすべてを用いて、彼女が人間ではないことを証明しようとして、そしてそれは尽く否定された;彼女は、人間であるという事実が淡々と出力されるばかりであった。彼には、そうであるという結論に対して、絶対の自信があった。ただ、冷却が続いているという事実一点を除いて。

「今、不明破壊活動主体対策についてここで論じても仕方がありません。」
「わかっている、暴走温室化の回避についてだろう。だがそれが可能なら現在理想的な解決方法と目される〝極氷復古〟に最短なのだ、わかるだろう。そのために」
神妖かみさまの力の解析は、急がなければならない。エネルギー問題の観点からも、その神妖フローズンホープ――」
「待って下さい」

 少女漫画の王子様アバターの言葉を、ハーン八雲が遮る。

「我々の分析の結果、彼女は、ただの白痴の人間でした。破壊活動も行っていない。彼女を、神妖かみさまと呼ぶのは筋が違います。グレートシングと混同されていらっしゃいますか?」
「あの子供が、神妖:グレートシングの縮退状態ではないという確証はあるのか。それに、封入区画シバルバーの中では暴走冷却が続いているのだろう? 熱核加熱を継続しなければ、破局は拡大する:破壊活動も同じだろう。」
「ハーンさん、あなたがあれを諦めるというのなら、我々の誰かが引き継がなければなりません。神妖:フローズンホープは、地球の命運を担っていると言っても過言ではない」
「私はもう神社本省の人間でも、古今への影響力を持つ者でもない。……彼女は、茅野ちのはもう、私の手を離れています。我々の解析は、既に完了しました;仮に調査を継続したところで、これ以上新しい事実は得られないでしょう。私から言えることはそれだけです。それでも、と仰るのなら、あなた方で好きになさればいい。」
「それが、君の回答か」
「……時間です、次の予定がありますので、私はここで退出させていただきます。」

 八雲は、チャットルームを退出し、ログアウトする。VR眼鏡を外して机の上に置き、苦々しい表情でため息を吐く;ついでに口汚い罵りが溢れ出した:クソが。電話端末アプリケーションを開き、指先で操作する。表示されているのは〝雲月君〟と表示された画面、しかし八雲は通話と書かれたボタンにふれることなく何かを思い直すようにアプリケーションを閉じる。

(雲月君、君も哀れな男だ。あんなものに入れ込まなければ、良い人生を送れたものを。いや、それでも私を、負け犬と嗤うかな。彼女はただ私の呼びかけに応えなかった、それだけかも知れないのだから)

 そうして、八雲は机の抽斗を引き格納されたトランク形式の木箱の蓋を上に開ける。ずらりと並んだ褐色円柱の列;その一つを手に取り、そのまま流暢な振る舞いで脇にあるカッターを使ってその端に切れ目を入れる。炎で炙るように焦がしてから切入れた口を吸った。深く、珍しく深く、大きく吸い込んで、一息貯めてから息を吐く。吐き出された煙は光に照らされて紫に滲む。揺蕩い消えていく紫煙をどこか遠いもののように眺めながら、八雲はもうひとつ、胸中独り言つ。

(きっと彼女は、あんな姿になっても、君を求めているのだな)





# 後記・コメント

あとがき ③でおわれそうにない…
コメント
  1. 楔[2021/03/04 23:40]#今までの長編では神妖というのは怪獣映画の怪獣みたいな立ち位置、あるいはさらにおぞましい何かとして語られてきて、一応打倒したこともあったことはありましたが、それを解析したり人類の思うようにどうこうしようとしたりするのは……うん、悪い予感がぷんぷんしますが、さてどうなりますやら…… 恋娘チルノちゃんが行動に出てしまったわけですが、心情的にも肉体的にも何か追い詰められているように見えますね。 リグルはクソ雑魚ショタビッチのくせに何いっちょ前に抵抗とかしちゃってるんですか。何を寸止めぶっかけオナニーで満足とかしちゃってるんですか。チルノちゃんと向き合って本気セックスするためには何が足りないんですか。そういうエロい期待も込みで続きも読ませていただきます。

みこう悠長[2021/03/06 16:30]#いつもありがとうございます。リグルくんには一層倫理観を喪失してもらわなければいけませんね!今後どうこれらの話をまとめてくか頭を抱えています(時間がない


おてがみちょーだいっ

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